【大分】vs熊本(A) 理想と現実の狭間で 〈J2 第32節〉
悔しい敗戦から1週間。2週連続の九州ダービーはまさに「絶対に負けられない闘い」となった。この試合を含めて残り11節となったJ2で大分は勝つために理想の現実の狭間で揺れるなかで価値のある3ポイントを手にした。
この日のメンバーは以下のように。
ロアッソ熊本
ここ数試合は3-3-2-2だったが、この日は3-4-2-1でスタート。安柄俊が累積警告で出場停止、皆川佑介(ウンチョコ皆川)はベンチからGO。ここ最近の特徴としてチームのアシスト王の田中達也が左サイドに回り、GKの佐藤昭大がベンチ外(怪我?)に。なかなかDFの固定ができないまま苦しいシーズンとなっている。
大分トリニータ
久々の3-4-2-1。ここ3試合無得点と、補強しろおじさんがギャーギャー言い出すような苦しい結果に(補強するカネはない)。無得点で勝ち点は落としているが内容としては理不尽!なゲームが続いているためそんなに酷くはないと感じるが3週間も焦らされると悶々とする。
メンバーは前節で涙した前田凌佑がベンチにも入らず、清本拓己が第12節以来のスタメンとのこと。
ビルドアップの変化とサイド攻略
この試合での大分はパターン化されつつあったビルドアップに変化をつけることと、3バックの泣き所である敵陣深くの脇を攻略することが大きな目的であった。
まずはビルドアップから。
この日はまず、ダブルボランチの小手川宏基、丸谷拓也の役割を逆にしていた。理由としては熊本のマークのズレを作ることと、丸谷をゴールに近い所でプレーをさせることで引いた相手をミドルシュートで押し込む意図があった。つまりはこの日も片野坂監督はシバキ倒すドSな展開にしたいんだな、と。
しかし、カバーリングには長ける小手川だが、丸谷のようにプレスを往なしながらのプレーには疑問符がつき、寄せが甘いために中盤を安易に抜かれてしまうというのがホームの甲府戦でバレてしまった。そのため、3バックが右サイドにスライドし、星雄次が下がってビルドアップの起点に加わる形でボール回しの人数を増やしてバランスを取った。
サイドの攻略についてはビルドアップをしていくなかで右WBの松本怜を前線に上げて、清本が逆のワイドに開くことで幅を取り、中盤からシンプルにサイドのスペースを狙う事を第一にし、シャドウの三平和司が中盤でクサビを受けに下がることで、熊本がサイドをケアすれば中から攻めるというのがプランであった。
これをまとめると4-1-2-3でビルドアップ、攻撃をしていくことがベースとして見てとれた。
この3-4-2-1からの4-1-2-3の可変は前期での熊本が大分戦の後半でやっており、サイドのスペースを田中達也が攻略して黒木晃平がヘディングでシュート、という場面の再現を大分が狙っていたようだ。
なぜこの日の大分は相手を押し込める3-3-2-2ではなく3-4-2-1を採用し、可変でサイドを狙っていたのか。それは熊本のビルドアップの特徴を掴んでいたこととサイド攻撃を抑制をするためだろう。
熊本のビルドアップは3バック+ダブルボランチの形。シャドウが中盤に下がり、両WBをウイングまで押し上げた形を取る。
そして、攻撃に入ると上村周平が最終ラインに入り、上里一将とタテ関係になって4-1-2-3の様な形に。
このビルドアップ→攻撃ではスムーズにいけるが、そこからの守備ではどちらかのサイドは攻撃のサポートを行っているため実質3枚しか後ろに残っていない。それを踏まえてのサイド攻略ということだろう。
そして、熊本は守備ではハイプレスをかけずにミドルゾーンにまず引いてブロックを作る形に。
こうなってしまうと熊本としては強みであるWBを守備に専念させなければならず強みを生かせない。そうならないためにボールと逆サイドのWBを残してボランチを落とす形もしていたが、ボール奪取後も大きな展開ができずに押し込まれていた。
(大分の右サイドからの攻撃が多かったため、田中はSBまで押し下げられる。逆サイドの高瀬優孝が攻め残り、シャドウの坂本広大、ボランチの上村が1列ずつ下がる。)
大分は第一に熊本を引き込んでカウンターから4バックのサイド、もしくはアンカー脇のスペースの攻略を第一に押し込む際には右サイドから攻め、被カウンター時の対策もしつつ押し込む、というプランだった。
サイドのスペースの攻略を第一にしていたため、ロングボールを使い速さのある松本、清本を走らせることを優先した大分。すると30分に相手を押し込むとボックス内で三平がシュートを放つと熊本の園田拓也がハンドを誘発し、PKを獲得。これをしっかりと三平が決めて分娩室でできなかった活躍を果たす。試合後の伊佐スタグラムにて「プロ初のPKキッカー」だったことを告白。なんか意外だった。
大分は喉から手が出るほど欲しかった先制点を奪い前半を折り返す。
悪い流れも……
前半終了間際に自陣ボックス内でヘディングでクリアしようとした岩田智輝の顔面に八久保颯のスパイクが入り流血。大事には至らなかったようで一安心だったが、後半の頭から岡野洵がピッチへ。
後半から熊本も変更。メンバーは変えずに、WBとシャドウを逆に。
大分に押し込まれたとしてもカウンターから田中の快速を使い得点機を伺う。後半開始から15分ではこれがハマり、田中のクロスからチャンスは作るが得点には至らない。
60分から大分も修正。伊佐耕平を下げて久々にベンチ入りをし川西翔太を投入。三平がトップ、川西がシャドウの位置に入った。
ここから攻勢に出たかった大分だったが直後の61分。ボックス内で福森直也が八久保を倒してPKに。前を向いた時には八久保の体勢は崩れかかっていたため帳尻PKにも見えたが、審判の位置と福森があそこで利き脚の左足でチャレンジをしたのが悪い印象だった。そこよりも直前の自陣でのスローインでかっさらわれる方を問題視してほしい。このPKを八久保に決められて同点に。悪い流れでの失点は痛かった。
熊本は68分に高瀬から黒木に変更をし、逆転に向けて攻勢に出ると、74分には伊東俊から皆川佑介とし、高さも加える。大分はミドルサードから前を向けないため、小手川と川西をポジションチェンジ。オープンな展開になりかけたが、中盤の底で川西がタメを作って落ち着きをもたらす。
そして79分。右サイド深くを松本が抉り、後方でサポートをしていた岡野へ。岡野はワンタッチでハイクロス(多分ミスキック)を入れるとGKの畑実がパンチング。これを丸谷がワンタッチでループシュート。ボックス外からの難しい距離、ワンタッチでのコントロールとめちゃくちゃ難しいシュートだったが綺麗にゴールに吸い込まれて再びリードを奪う。
直後に三平から裏抜けゴールマシーン藤本憲明を投入すると、ファーストプレーで松本からのスルーパスを裏抜けをしてGKをかわしてゴール。GKを交わしながら身体でブロックしたプレーは細かいけれど上手さが光った。
このまま試合終了。大分は上位争いに踏みとどまる大きな勝ち点3を奪った。
熊本の印象
現在21位と残留争いに巻き込まれている熊本。その原因はリーグワーストの61失点を記録する守備陣だろう。今季ここまでスタメンでCBをしたのは10人となかなかに多い。3バックを継続してはいるが、守備陣が固定できないために難しい時期が続く。
この日も左右のCBには攻撃参加をさせたり起点になるようにはしていたが、展開力に乏しく切羽詰まった状況に。渋谷監督は3バックに大分のようなことを要求しているようだが、そろそろ現実を見なければいけないだろう。J2に残って九州を盛り上げてほしい。
話が変わるが、強い気持ちで皆川佑介のウンチョコ皆川呼びを広めて行きたい。
ウンチョコチョコチョコピーーーーッ!
理想と現実の狭間で
この日の大分は中盤から前でのフリックを多用した流動的なパスワークやCBの積極的な攻め上がりは影を潜め、サイドへのロングボールからの展開をするなど現実路線に変えてきた。これはやりたいことをして勝てなかった徳島戦、福岡戦を踏まえての判断だろう。前半からやや大味な試合展開だったが、勝てば良かろうなのです。これから年末まで勝ち点3をたくさん積んでいかなければならないときに理想なんて言ってられない。理想も大切だが…… そのなかでこの試合はとても意味のある勝ち点3になったはず。シーズン終了まで駆け抜けてほしい。
【ハイライト】2018明治安田生命J2リーグ第32節 ロアッソ熊本 vs 大分トリニータ - YouTube