Nishida's diary

トリニータを中心にいろんな試合を。

【大分】vs町田(A) 天王山、落とす〈J2 第37節〉

ここ数年の大分にとって町田は忘れたくても忘れられない相手。2012年の昇格争いでのアウェイ、15年の入替戦……そして今年前期での対戦もまさに死闘と言える内容だった。

目の前に立ちはだかる「壁」、町田。暫定ながら首位に立った大分はまたしても難しい試合となった。

 

この日のメンバーは以下のように。

FC町田ゼルビア
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2試合未消化ながらも上位にいる町田。サイドを圧縮して狭いスペースを攻略すること、そして90分走りきるスタイルで勝ち点を積み重ねてきた。

この日は怪我人やコンディション不良の選手が多く、井上裕大、奥山政幸、森村昂太などがメンバー外。大谷尚輝は累積警告で出場停止。

ロメロ・フランクは前回の大分戦以来24試合ぶりのスタメン起用に。

 

大分トリニータ
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前節から三平和司をベンチに下げ、馬場賢治をひさびさに先発から使う。

ベンチには宮阪政樹が入り、状況によって大きな展開に持ち込める準備をしていた。

 

CBを釣り出して

大分は前回の対戦と同じく、シャドウがサイドに開きWBと近い距離感でプレーすることを重視。(前回の内容はコチラから)

横の圧縮をしてパスコースを狭めてくる相手に対してDFラインからの背後を狙ったパスや対角線への展開により圧縮されていない逆サイドへボールを持っていくことで一気に局面を変える事を目的としていた。

特に多かったのが右サイドからの展開。岩田智輝や松本怜、サイドに寄った鈴木義宜から対角線の星雄次、馬場賢治を狙ったり、ロングパス1本で伊佐耕平を狙ったりといった形に。
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ここで大分は特に対角線へのロングパスで町田を攻略しようとしていた。

星が大外の高い位置でロングパスを受けると、対面する小島雅也はボールへとチェックに。

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それに連動して4バックはスライドをしていくが、小島と酒井隆介の間は広くなってしまう。(小島はボール奪取、酒井は小島との連携と共に対面する馬場を見ないといけないため)

 

「SBにWBをぶつける事でCBを動かす」

これが大分の狙い。

大きな展開で対角線にボールを逃がしてしまえば相手のSB-CBにスペースが自ずとできる。あとは星と馬場の連携でワンツーで星がサイドの角を取ったり、馬場がSBの小島の背後を取ってボックス内に侵入したりできる。そうなった場合、対面するCBはリアクションをせざるを得ない。

 

これは単にこの局面だけのハメ技だはない。町田が大分のサイドチェンジ、ロングパスを嫌って逆サイドにマンマーク気味に付く事や、DFラインを下げる事をすれば町田のスタイルである圧縮して狭いスペースでのカオスを生み出すサッカーはできなくなるため、チームの秩序を乱すという面でも大きな意味があるものだった。

 

また、この対角線ないしDFラインの裏を取るための準備もしっかりとなされていた。

大分は町田がボールを持った際にいつもより低い位置までプレスに行かずリトリート、ディフェンシブサートに入ってからは人にマークをつけて前を向かせない事をした。コンパクトな町田の組織だったプレーを逆手に利用するための策だ。

これがスタートからハマり、前半序盤から伊佐が決定機を2度3度と迎え、大分ペースで試合が進む。

 

町田もSBにWBをぶつけられることは想定済みのようで、大外に振られたらダッシュで横スライドをしてディレイ。根本的な解決とはいかず走らされる形になったが、それは我慢。選手たちも「それが自分たちのやり方」というのをわかっているためか、強度自体は落ちなかったようだ。

 

町田は基本的に相手によってやり方を変えない、横スライドから速攻を防ぎSHを下げてブロックを作ることは片野坂監督も想定済み。町田のプレッシングが外された時に取るリアクションを考えていたため、次の策にもスムーズに入ることができた。

大分の用意した策は右サイドの組み合わせの変更。町田を自陣に押し込んでからの崩しは、シャドウを中→外に開き、相手のCBを外に誘い出す事だった。

普段の大分では、WBの松本怜、右ストッパーの岩田智輝が高い位置を取り、小手川宏基カバーリングをするというトライアングルが大きな武器。しかし、このユニットでは攻撃に転じた際に立ち位置の関係でどうしても深い位置からのスタートになる。そうなると町田の素早い寄せにあっぷあっぷしてしまい絶好の「ボールの狩り場」になる。

それを防ぐために、今季はじめてこのトライアングルから小手川を外し、カバーリングの役目をボランチ丸谷拓也が担った。これにより、小手川が外に流れて松本と縦関係になりやすくなったり裏抜けがしやすくなった。

 

そんなこんなで大分は町田の横圧縮を揺さぶりスライドをたくさんさせることで疲れさせる事と、スライドによって生じるスペースを使いCBを釣り出すことで町田の戦術的な骨格を殴り続けたが、先制点は町田だった。

16分に右からのCK。大分は町田の高さを気にして中に陣取る裏を取られてニアサイドのペナ角のロメロフランクをフリーにしてしまう。平戸太貴がゴロでそこに出すと右足一閃。高木駿に触れられるもニアサイドの角に決まり失点。

大分は失点してからもやり方を変えずに骨格を殴り続けると、25分に福森直也のロングパスに抜け出した小手川がGKとの1対1を交わしてカバーに入ったDFの股を抜くシュートで同点。32分にはまたしても大きな展開から小手川→伊佐→小手川と渡り、ニアに飛び込んだ馬場にクロス。馬場はバックヒールでファーサイドに流し込んで一気に逆転。

その後もWBとシャドウがサイドで縦関係になりフリックやワンツーでCB、SBを動かしながら崩す形に。

このままリードして折り返すかな~なんて思った43分、右サイドの低い位置からのクロスをニアでロメロフランクが反らして高木はキャッチできず。こぼれ球を中島裕希がしっかりと決めて再び試合は振り出しに。大分にとっては実に15試合振りの複数失点であった。

 

バレた「左」

えー、突然ですが。シーズン通しで試合をまとめていると、どうしても違和感に感じたり「あー、ここ穴だなぁ~」なんて思う事はあります。あんまり書いちゃうとどこかのクソメ……ゲフンゲフン

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(誰だろうなぁ~???)
から覗かれたらマズいことは極力書いてきませんでした。すんごい自惚れですが……

 

しかし、町田の相馬監督は前半の45分で左サイドからの速攻はないと見切っていた様子。

後半から横スライドで対面する小島雅也を大外の星にまでスライドせずに、パスの受け手となる馬場を捕まえるように。これでは星がサイドを抉って大変!枚数が足りない!となるが、星はボールを足元で受けると①カットイン②パス&ゴーの2択がメイン。深い位置からのクロスは選択肢としてはあるだろうが、ニアに早いクロスはまだしも、ファーサイドや中にクロスを上げるとことごとくワロスになることがバレていた。

また、町田は右サイドの守備で星を取りどころにするために土居柊太は下がりながら星を第一に捕まえず、前田へのパスコースを消しながらの守備へと変更した。

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(4バックの右脇に星が侵入できるが、そこに入られても問題はない。切り返して中と連携を取られた方がイヤなので中の強度は高くしたい。)

これにより、星にボールが入ってもパスの出しどころはなくなり、カットインをしても自ら網にかかるだけ。サイドを抉っても中は高さで勝る相手にFWは競り合いをしないといけないし、そもそも精度が低いためチャンスになりづらい。

また、大分も後半からシャドウを内側に留まらせてバイタルエリアから崩していきたい。全体を押し上げて相手を押し込みたい。という意図もあったようだ。

こうやって次第に大分はじわりじわりと攻め手を失っていくと58分、CKから深津康太のヘディングは枠に嫌われるがこぼれ球を鈴木孝司がトラップからシュート。ゴールネットを揺らし再逆転かと思われたが、鈴木のトラップがハンドと見なされてスコアは動かず。しかし、63分に左サイドのスローインをロメロフランクがボックス内で相手を背負いながら反転。それと同時につま先で蹴り、GKのタイミングを外しつつニアサイドに決めるというスーパーな一撃で再び町田がリード。

 

大分は69分に伊佐、馬場を下げて藤本憲明三平和司を投入。2トップにして攻勢に出る。

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すると直後の70分。三平のクロスに裏抜けマシーン藤本が背後を取ってヘディングシュートは枠に嫌われてしまう。

前線の枚数を増やした大分。ただ単に前に人数を増やしたということではなく、中盤に5人を横並びにすることでサイドチェンジを容易にすることと星を直接小島にぶつけずに少し低い位置で土居を食いつかせて前田をフリーにする意図としての意味合いが強かったように思われる。

しかし、落ちると思った町田の強度は落ちず、サイドで詰まって逆サイドに逃がすことを繰り返してしまった。

83分に狙われていた星を下げて清本拓己を投入して局面の打破を試みたが、時間が少なすぎた。町田は85分にロメロフランク→李漢宰、90+1分に中村→藤井航大、90+5分には鈴木→山内寛史と守備的な交代で4-1-4-1に変更。

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そのまま試合をクローズさせて試合終了。注目の上位対決で勝ち点3を落とす形になってしまった。

 

町田の印象

しっかりと走りきるし、骨格を殴られても我慢。流れが悪くても平戸太貴の精度の高いキックから得点が取れる。実に嫌らしいチームだった。シーズン終盤に差し掛かり、さすがにどこかでガクッと強度が落ちるだろうと踏んでいたが、そんな素振りは全く見えず。

–後半のほうが戦い方が整理されたことは現象を見れば分かるのですが、球際の攻防の部分は守備が整理された上でもインテンシティーが落ちませんでした。これは日本サッカーの共通の課題でもあると思いますが、65分過ぎぐらいからは間延びしてインテンシティーが落ちるものです。それでも町田は終盤までインテンシティーを落とさないゲームをできているという印象です。それはチームの自負として、強みとしているという認識でよろしいでしょうか?
「90分落ちないようにしようとチームを作ってきていますが、普段から我々の試合を見ている方は分かると思いますが、ウチのチームでも後半の60分過ぎや前半の30分過ぎにインテンシティーが落ちるということは当然あります。

ただインテンシティーを落としたまま、90分のゲームを終えようという話を選手たちにはしていません。90分もつようにしようという戦いをしてもらっています。その中で選手たちが努力をしてくれていますし、もしそう言っていただけるのであれば、それは選手の努力の積み重ねでもあります。僕からすると欲深いので、もっとと言ってしまうのですが、今日も選手たちが戦い続けて、やり続けて、難しい場面も何度も破かれても戻ってと、本当によく戦ってくれたなと思っています」

町田公式HPより

 

うーん。強かった。

選手で印象に残ったのは深津康太とロメロフランク。

2人とも前回の対戦で深津は12分に退場、ロメロフランクは後半に負傷退場と苦い試合になったが、深津はエアバトルに強く、セットプレーで脅威であり続けた。ロメロフランクは全得点に絡む大活躍。別の試合で活躍くれ……

出た選手全員が走りに手を抜かない。こんなに強度が落ちないチームはなかなか無いとつくづく感じた。強い!

 

躓いたが

大事な大事な1戦を落とすと共に首位を明け渡してしまった。痛恨の極みである……

前半で伊佐のハットトリック未遂や後半の藤本のヘディングなどタラレバを言ってしまえばキリはないが、全く正反対のサッカーを志す両チームがどんなリアクションをするのかとても楽しく、充実したゲーム内容だったと心から思う。たかが辺境の2部リーグでこれだけ最先端の解釈を取り入れた試合を繰り広げてくれたことがとても嬉しく、それが我が愛するトリニータが1年を通してやってくれているのがとてもありがたいと感じる試合になった。

この敗戦で終わりではなく、残り5試合でまだまだ優勝、自動昇格の道が途絶えたわけではない。今を楽しみ、逆境に立ち向かう。いつだって「修羅場上等」だったじゃないか。このチームでひとつでも上に行きたい。

 

 

 

サッカーの「今」を見る

現在のサッカーを読み解くには「カウンター」と「ポゼッション」という二項対立はもう古くなっている。様々な局面を想定した上でどう立ち振る舞うのか。そのためには「カウンター」と「ポゼッション」のたった2つの言葉ではとても囲いきれない。進む時代に我々見る側も取り残されないようにしないといけない。

 

奇しくも今月号のfootballistaのテーマは

「ポジショナルプレーVSストーミング
欧州サッカー2大戦術潮流の最前線」

内容はコチラ

ポジショナルプレーの大分とストーミングの町田。わからないことだらけのサッカーだが、これを読めばなんとなーくは読み解けるはず。たぶん。

 

ポジショナルな3バックという意味ではベティスサッスオーロあたりが大分に似ているチームだと感じた。大分から世界へ。我々見る側もちょっと世界を覗きませんか?

 

かなーり最後は逸れた気がするけどとりあえず今回はこんなところで。

 

 

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