【大分】vs名古屋(A) アクシデント〈ルヴァン杯グループC 第2節〉
難しい試合だった。
多くの実験を行い、そうそうに失点。さぁ立て直していこうという所でのアクシデント。自分たちの新しい形を模索する中でのトラブルは大きくトリニータにのしかかってしまった。
この日のメンバーは以下のように。
名古屋グランパス
……カップ戦でこのメンツ!?
うちから点取って割りとすぐ名古屋に加入した前田直輝にSBでめっちゃ点取ってた金井貢史、影武者小林裕紀に千葉ディーマーキュリー、最前線にはグルテンフリーのジョコビッチまで。ズルイズルイ!!サブに中谷おっぱい之介にジョー、シャビエルって豪華かよ……
武田くんおひさ!
大分トリニータ
豪華さではまけても試合で勝てばよろし。
3バックの真ん中の庄司朋乃也が初の出場。レフティーの高畑奎汰が右WBという驚きもあった。
そしてベンチは7人まで登録できるが5人のみ。少数精鋭で。
突然の
さぁ、前半どんな入りするのかな~!と思ってたらたったの4分で相馬勇紀に直接FKを決められてしまった。壁の横を抜けてワンバウンドで枠ギリギリ。ボールスピードも早く、小島亨介も反応がやっとだった。しゃーない。
早稲田大学の同期の小島と相馬。ポジションこそ違えどバチバチやってくぞ!ってのが感じられてちょっと鳥肌だった。
狙いは「ライン間」
出鼻を挫かれた大分だったが、徐々にやりたいことが見えてくる。キーワードは「ライン間」だ。
名古屋の4-4-2のSB-SH間に逆足のWBを侵入させることで選択肢を増やす狙いがあった。これはルヴァン杯第1節でセレッソ大阪が松田陸を逆足WBとして配置したところからヒントを得たのだろう。
逆足WBにすることでどんな選択肢が増えるかだが、タッチライン際より内側でボールを持てるため、ドリブルがしやすい。またアーリークロスでインスイングのボールになるためDFの対応が難しい。そしてアーリークロスを餌にシャドウがハーフスペースで相手の背後を取りやすくなるという3つの利点がある。
そしてここで大切なのが「2ライン間」になる。パスを受けた状態で相手SHより高い位置で受けることで選択肢が大きく増えるからだ。ボールを受けたWBのチェックのために名古屋のSBは寄せて、逆のSHがスライドをして枚数を合わせなければならない。するとWBからするとファーサイドで大分のシャドウと名古屋のSBがマッチアップをすることになる。このミスマッチをつくる事で効果的に攻めようとした。
(大分左サイド、星雄次が前田の背後を取って菅原由勢を引き出す。星はカットインして伊藤涼太郎が菅原の裏を突くか、ミスマッチが起こる馬場賢治に当てるか、対面するボランチを抜くか、のビッグチャンスになりうる3パターンを用意できる)
特に昨年はバリバリのスタメンだった星は上手くこなしており、島川俊郎がさりげなーく下がって岡野洵に高い位置を取らせる事で上手く機能させようとしていた。
名古屋の大分対策
一方の名古屋も大分のストロングポイントにしっかりと対策を講じてきた。
大分の長所は右サイドの分厚い攻撃。WBが幅を取って、CBがハーフスペースにガツガツ入ってくるため対応が難しい。名古屋はこの対策として大分のビルドアップの制限と可変によってマークのずれをなくす事を行った。
フォーメーション的に見れば、小林がDFラインに落ちて伊藤洋輝をアンカーに。左サイドを1つずつスライドさせて相馬をシャドウにして3トップに。
これにより大分の3バックに前3枚をぶつけてWBの高畑を金井、馬場を櫛引一紀が見るようにして対応。大分はGKを含めたビルドアップにより前線のプレスを剥がすが、小島は大分のDFラインに入ってバリバリのフィールドプレイヤーとしてプレーができないためにしっかりとハマった。
不自由なビルドアップ
大分はビルドアップで蓋をされてしまい、なかなか効果的にボールを前線に運べない。数的優位が作れないため3バックとボランチの5人で回して名古屋のプレスが強くなると慌てずにGKやWBを使って上手く剥がそうとする意識は見えた。しかし、普段は数的優位をつくる事を前提にしたビルドアップを行っているためか、プレスがハマってしまうと極端に精度が下がってしまった。
プレスを剥がすには「目線を切る」という言葉がよく使われる。隣どうしの選手でパスを繋いでも、プレスをかける側からするとそんなに苦ではなく連続してボールを追いかけやすい。カバーシャドウなどがしやすい状態とも言える。しかし、選手を一人飛ばして相手の背後を取ったり、サイドを変えるといった「幅」や「奥行き」を使った「目線を切る」プレーをされるとプレスを外すことができる。大分はこの「目線を切る」プレーの精度があからさまに低かった。GKからWB、CBからシャドウなど、1列飛ばした奥行きを使う場面でボールがうまく繋がらずに、セカンドボールを回収されまくった。
そしてWB、CBが高い位置が取れずにチームの重心が下がってしまうという結果に。前線で5人が幅を取って強制的に1対1を5つ作るミシャ式の原点が作れない。これは大分に取って致命的な事であった。
泣きっ面に蜂
悪い流れの大分。なんとか建て直していこうと31分に早くも片野坂監督は動く。中盤と最終ラインの調整役を担った島川を下げて小林成豪を投入。3センターに変更をして選手のポジションも逆足WBを実行しつつ昨年ベースに戻した。
が、直後に伊佐が負傷交代。オナイウ阿道が出場。
流れを掴みなおすために交代をして残り2枚で……というプランもあっただろうが、負傷による交代は仕方なし。こんな日もある。
35分ほどから名古屋は杉森考起と前田直輝の位置を入れ替えて、ハイプレスを途切れさせない。41分には左サイドを小林裕紀と相馬勇紀のワンツーから長谷川アーリアジャスールから背後を取った金井貢史へと渡りマイナスの折り返しを再び長谷川。綺麗に崩されてリードを2点に広げられる。
早くも万事休すかと思われたが、2分後の43分に千葉和彦のトラップミスを伊藤涼太郎がかっさらってゴール。大分はビハインドをなんとか1で折り返した。
中間的な
後半に入り、名古屋は前田から榎本大輝を投入。高速キュンキュン系ドリブラーを入れてとどめを刺しに。
大分は3-1-4-2と3-4-2-1の中間的なプレーをする。おそらく相手のスペースを突くための策だったはずだ。
守備では2トップが制限をかけて内側をシャットアウトしにいった。
が、2トップが攻撃→守備時に適切なポジションにつけずに、制限をかけられなかった。
1stラインが突破されると、相手SBに対面するWBが寄せて一時的に4-4-2的な形に。
自陣では5+3でブロック。ビルドアップはヘッドアップが出来ないため致命傷に成りうる。ラフに蹴り出されたボールをオナイウの身体能力!でなんとかするのが精一杯だった。
名古屋はこれに対してSHを高くして、大分のWBが前に出づらいようにピン止め。そのSHに相馬、榎本という強烈な個がいるため下手にスペースを作るわけにはいかない……
閉塞感が漂う大分は73分に小手川から三平和司へと変更。自陣でのビルドアップの形に変化をつけてズレを探す。
これにより多少は風通しが良くなったが……大きく流れは変わらず、試合終了。苦しい90分だった。
選手個人の印象
21.小島亨介
ハイプレスをされると一番皺寄せが来るポジション。そんな中でもFWを引き付ける、であったりWBへのフィードであったり1列飛ばしたクサビであったりと、チャレンジをたくさんしていた。チャレンジはしてなんぼ。どんどん頭のネジを緩めてほしい。
最初のFKこそ防げなかったが、後半は相馬のシュート、小林のミドルなどスーパーセーブもあった。身体の使い方の上手さは流石。またみたい。
8.丸谷拓也
守備に奔走して3バックでは目立った攻め上がりは披露できずに、本職ではないためかサイドに引っ張られる場面も散見された。
アンカーポジションに入ってからは散らし役として堂々としたプレーもハイプレスの餌食になる場面も。密集での落ち着いたプレーを片野坂さんは求めているのかもしれない。
39.庄司朋乃也
対人での強さを随所で発揮。1点モノのシュートブロックもあった。一方でボール保持時には縦と横にしか配球ができずに読まれていた節も。対角線!ダイアゴナル!
もっと余裕が出てくればプレーも変わってくるだろうが、そんな上手い選手はうちは取れないし、成長してほしい。
16.岡野洵
なんとなーーーくだが、調子の良し悪しがプレーに出やすいのか?という印象。対人プレーで身体より足が先に出てしまうことが多かったこの日は調子悪かった気がする。
ビルドアップ時には幅ばかりを意識してしまい、ハイプレスの餌食に。奥行きも見れるようになればなぁ、と。一方でボールを持つとフィードだけでなくシャドウにズバッとクサビをいれる場面も。それもっとみたい!
38.高畑奎汰
突然の右WBでの先発も、逆足からチャンスを作る。縦に抉って右足クロスも上手かった。器用ね……。CBになってからは積極的にオーバーラップを仕掛けるが小林との連携がイマイチだったこともありトーンダウン。これも経験。
20.小手川宏基(73'Out)
相変わらずめちゃんこカッコいい写真。プレー写真が絵になる選手。
ルヴァン杯で実験的な意味合いが強かったこと、アクシデントでガチャガチャしてたことからかバランス取りにとても苦労していた印象。そんな中でも自分の位置で前を向けたらチャンスになることをわかっている変態なのでサラッとオシャレターンとか魅せていた。
4.島川俊郎(31'Out)
ほぼほぼ懲罰的な交代だった。
押し込まれていたため彼のカバーリングが生きる場面も多々あったが、片野坂さんが求めていたプレーとは違ったのだろう。ビルドアップの際のポジショニングがパターン化されてしまっており、後ろに人数がいるにも関わらず最終ラインに落ちる姿は昨年の宮阪政樹(現松本)とダブった。
しかしまだ3月。こっから理解を深めていけば良さを生かしつつビルドアップも上手くなるはず。その見込みがなければ少ない予算でうちは取ってない。次に期待。
19.星雄次
高畑と共に重要なタスクを担う。昨年はレギュラーだっただけあり、機動力と右足なら可能性があるプレーを何度も作ってくれた。
特にこの日はライン間でのポジショニングとインスイングのクロスはあと少し噛み合えば1点モノだっただけに惜しかったな、と感じた。
11.馬場賢治
相変わらずのポジショニングの良さ。滅茶苦茶気が利く選手。プレスバックでボールに寄せられるので攻守両面で上手いなと感じるプレーを随所で魅せてくれた。
一方で、アタッキングサードでのプレー精度は課題か。「違い」が求められる位置でのロストが多かった。
46.伊藤涼太郎
ミスをしっかり突いて1ゴール。ガムシャラさが結果に繋がってよかった。
アクシデントから2トップの1角としてプレーをしてからは消えがちに。多分ぶっつけ本番だったので仕方のない事だっただろう。
果敢なドリブルは可能性を感じたが、スペースに走る味方を見られるともう一段上のレベルに行けそう。
18.伊佐耕平(33'Out)
前線からのチェイスや、広大なスペースを突いてサイドに流れて起点となったりと対ハイラインの動きに慣れてるなぁ、と。見せ場が絶対来るだろうな、と思った矢先に負傷交代。それも長期離脱のようで残念。もっと見たかった。
25.小林成豪(31'IN)
後ろでダブつくならサイドで奥行き作ろうや!ってことで投入も、高畑との関係性はあまり見られずに同じスペースを食いあったり、馬場がカバーリングに入っているのに下がっちゃったりと慣れてないな感が凄かった。だからといって前線で張って幅を取っても効果的なパスは来ない……悶々とした展開に。
45.オナイウ阿道(33'IN)
伊佐の負傷交代により投入。山口在籍時は3トップの真ん中だったが、トリニータの求めるCF像とは違うようだ。ポストプレーは収まるけと判断が悪く収支はトントン。しかし、密集で絶対前向けるという特殊能力を生かして中盤で密集作ってクルッとして剥がす力業で何度かチャンスを演出。特徴を出し始めた様子。
27.三平和司(73'IN)
シャドウ寄りのOHのようなポジションでプレー。なんとか中盤と前線を繋げようと頑張っていた。その頑張りの最たるものがサイドとの関連性。ボールを受けると星に預けて自分も前に行くだけでなくボランチも使って全体を持ち上げようとしていた。が、右CBの庄司の攻撃参加が積極的でなく(元々サイドでの経験がないし頭のネジがブッ飛んでる訳でもないからあるあるだが)、サイドの厚みを持たせる事はできなかった。しかし、この気の利かせ方はモテる男だからできるプレーだ。昨年からの継続が随所に感じられた。
やりたいことができないとき
問われたのは対応力。突然のアクシデントにどうするのか?という意味合いが強い試合に図らずもなってしまった。
現状のトリニータでは「剥がす」作業の意思統一に時間を割いているのでかなり酷な要求になってしまったが、苦しいがゆえに選手の特徴もよく見える試合になったとも感じた。
これからシーズンが進んでスタメンに割って入るのか、オプション止まりか、はたまたメンバーにもかすらないか。それは誰もわからないが、実にシビアな世界である。この苦しみを次に、そしてこれからのシーズンに繋げてほしい。
選手の写真は大分トリニータ公式HPより