Nishida's diary

トリニータを中心にいろんな試合を。

【大分】継続はやがて勇気に〈チーム編②〉

這い上がる。やり直せる勇気を見せる。一度躓いたってなんとかなる。できる。今年の、そして片野坂体制4年間でのトリニータそれを見事に体現した。

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まとめは1節からざっくりとしたくくりで4つ(序盤、前半戦折り返し、後半、終盤)に分けてみました。それを踏まえてどうよ?って流れで。

それではシーズンの振り返り!すたーてぃん!

 

ブレなさと抜け目なさが生んだ"勢い"

開幕の鹿島戦(2-1○)、4節の横浜FM戦(2-0○)などのビッグサプライズ。開幕から10戦で6勝2分2敗。アウェイ負けなしと最高のスタートを切った。

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大分旋風を巻き起こした大きな要因としては対戦相手が大分への対策よりもチームのストロングポイントを出したがった事と、チームの完成度が他クラブよりも"ほんの少しだけ"勝っていたからだろう。

対戦相手がストロングポイントを出したがった理由としたら、大分は2部上がりである程度「個」で勝る事が想定されやすい事、序盤戦であるが故にチームの底上げを図り、中盤戦以降を見据えて選手たちが実践の中でどんなプレーが出来るのかを試す場にした、という面が大きいだろう。

その一方で大分は、カテゴリーが上がっても「ボールを保持する」戦い方は継続。GKからのビルドアップや焦ってボールを蹴らないといった約束事を大きく変えなかった。相手が「個」で勝る事をある程度前提にして勝負をしてくるため、昨年戦った松本以外は面白いほど大分のビルドアップに食い付き、GKへの対応に四苦八苦しているうちに背後を取ってしまうことができた。

 

このブレなさと、シーズン序盤戦特有のメンバーの流動性が上手くマッチしてゲームの流れは思った以上に大分がやりたいことができる時間が多かった。それに加えて大きかったのは、抜け目のなさであった。

 

序盤戦、その抜け目のなさを遺憾なく発揮したのは藤本憲明
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開幕から7試合で6G1A。すごく飛び抜けた身体能力は無いが、スペースを見つける動きやこぼれ球への反応が物凄く上手い。逆足でもちゃんと上手いしワンタッチで仕留められるし……大分の相手を釣りだして背後を取る「疑似カウンター」との相性は抜群。彼の抜け目のなさも序盤戦での躍進の要因のひとつであった。

 

足腰を鍛える

10試合で6勝も挙げれば嫌でも目立ってしまう。11節からリーグ戦折り返しの17節までで挙げた勝利は2試合。12~16節は3分2敗と1か月丸々勝利から見放されてしまった。

12節清水戦では各ポジションの間で守られてパスコースを消されて、リスクを負ったパスがシンプルに無謀なパスとなったり集中力の欠如からかミスが増えた。今季一番のカミナリが落ちたとのこと。せやな……

続く川崎F戦、FC東京戦では「個」の力に圧されての敗戦。名古屋戦、神戸戦ではなんとか粘って引き分けという展開。ヒヤヒヤものばかりだった。しかし、それは裏を返すと「あと少し」の場面で守りきることができたとも言える。高木駿、鈴木義宜を中心とした守備陣が鍛えられた時期だった。

 

中でも鈴木義宜は印象深い。

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キャプテンとして、ビルドアップの中心として大黒柱であり続けているが、この時期にぶつかった「個」の力は久保建英永井謙佑レアンドロ・ダミアン、ジョーなど強烈な相手ばかりだったが、なんとか身体を投げ出してシュートブロック。多分読みやシュートコースを"見せる"のが上手い選手なのだろうが、J1仕様に合わせてきたのは流石の一言。それに加えて16節神戸戦ではバルトラロール(選手総括で言及します)をこなして劇的同点弾のアシストも記録。攻撃面でも成長できた。この高木と鈴木を中心とした踏ん張りがあったからこそ、上手くいかなかった時期もなんとか踏ん張ることができた。

 

「質」への挑戦

後半戦。移籍マーケットが開いてから出場機会に恵まれなかった馬場賢治坂井大将、吉平翼、高畑奎汰の4人が期限付きで退団。主力だった藤本憲明、序盤戦では主力だった福森直也が完全での移籍。一方で新加入選手として名古屋から小林裕紀G大阪から田中達也を完全移籍で、大宮から嶋田慎太郎を期限付きで獲得。

チームとしての骨格が固まっているため、現状のメンバーで物足りない所を補強し、思うように活躍ができていなかった選手の放出もある程度スムーズに行えたと思われる。その一方で藤本憲明の神戸への引き抜きは、強化部からしても青天の霹靂であった。ここで後手を踏んでしまった事が後半戦に響いてしまった。

「藤本がいないから点が取れなくなった」のは結果論でしかないが、あながち間違いでもないのが悔しいトコロ。この年のJリーグの夏のマーケットでは大きな動きが多く、後釜のリストアップもままならなかったというのが本音だろう。

 

編成では絶対的になりつつあったCFが流出したためやや苦労はしたが、基本的な方針はブレずに貫けた事は評価に値すると考える。それはこの時期に直面した「個」や「質」になんとか喰らい付く事ができたからだ。

 

折り返しの18節から30節までで3勝5分5敗。負け越しや20節~26節まで約2ヶ月も勝ちから遠ざかったりとまぁしんどい時期。個々のクオリティで劣ってはいるがゲームプラン通りに、上手く事が進んでいても理不尽に殺られる事が多かった2ヶ月。そこを耐えて耐えて、ブレずに継続できた事がクラブとして今年一番評価されるべき点だと思う。

 

今年一番成長を感じられたゲームもこの時期。第25節の松本戦だ。

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結果こそスコアレスドローではあったが、松本を終始圧倒した90分。昨年から共に昇格したクラブとの対戦だったからこそ多くの「変化」を感じられた。

ボールを保持して後ろからゆっくりつなぐ大分に松本がプレスに行く。それに対して大分の選手たちはボディフェイントひとつでタイミングを外したり、味方へパスをできたりと技術、判断面で大きな差を見せつけた。また、ボールを奪われても即時回収。フィジカルが強みである松本を相手に球際での強さも見せてくれた。

「質」に悩み、挑み、折られる方がやや多かったが、少しずつ少しずつ、それこそ亀のように日進月歩で積み上げができた時期だった。

 

貯金を生かし、来期へ

30節FC東京戦で敗れたものの、他会場の結果により目標であったJ1残留を果たしたトリニータ。混戦のJ1リーグの中で想定外の早い時期に来期もJ1で戦える権利を得た。

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望外の展開が故に、ここからのモチベーションの低下や来期に向けてどういうアプローチをするかが最大の焦点だった。

31~34節。特に最後の2節では来期に向けた戦いをしたように見えた。そこでのテーマは「1年間で選手のクオリティがどれだけ通用するか」と「最悪な状況の中で勝つ手立ての模索」であった。たぶん。

 

1つめの選手のクオリティについては、戦術的な後ろ楯が乏しい、もしくはない状況でどれだけピッチ内で考えてゴールまでの手立てを創るか。

夏に藤本の引き抜きがあったし、これから滅茶苦茶つまらない代表に片野坂監督が引き抜かれるかもしれない。というのはそんなに大きくなく、素のままで今の時点でJ1で通用する部分、しない部分を見てたような。

 

2つめは最悪な状況での勝つ手立ての模索。多分こっちが本命。自分たちの用意したプランが上手くいかなくなった際に、もしくは片野坂監督の策が出涸らしになってしまった場合にどこに光明を見出だすか。これを探して来期の準備をしていたように見えた。

 

ここの2つはただ単に負けた理由探しをしたのではなく、片野坂監督がこの2試合で「不可解な」変更があったからそうなんじゃねーかな、って妄想。キーワードは3センター。

 

仙台戦では岩田智輝、羽田健人が自陣高めの位置でボールを受けても相手がプレスを積極的にかけてこないから中盤内側をダブルボランチ、2シャドウから3センターにしてもっと前に人数かけて押し込もうぜ!って算段があったかもだが、C大阪戦の後半開始時の小林裕紀からティティパンへの交代で3センターにしたのは、それまでの大分の戦い方からするととても「不可解な」ものにみえた。

それまでは内側を見せて外側を使う形(岩田のインナーラップから松本怜の大外使うみたいな)が多かったが、WBの松本、田中達也を敢えて孤立させて(C大阪戦では交代枠を45分で早くも1枚使ってまで)攻撃が詰まるようにしたのは片野坂監督らしさが全く見えなかった。つまりは何かしらの意図があったのでは?というそれっぽい妄想。(総括……なのか?)

 

大分に片野坂あり

できることをこなし、積み上げ、来期へ繋げた大分トリニータ。J1残留を成し遂げる事ができたのは片野坂監督の采配が大きかったからだ。

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片野坂監督は一貫して3バックを継続。質や個々のクオリティでは勝てないが、徹底して数的優位と位置的優位を生かしてJ1を生き残った。

 

数的優位については3バックが一番わかりやすいだろう。相手がボールを持ったらまずは引いて守る。後ろにDFの3人と左右のWBが「構えて」5枚に。この「構えて」というのがミソで、相手FWと並走してボールの追いかけっこを愚直にしてしまうと速さだったりフィジカルで負けてしまうから、ちゃんとセットして、構えて守りましょう。という形。

今年はその後ろ5枚リトリートに+αを求めた。

 

昨年の主な守り方は5枚ベタ引きにシャドウが開いて5-4-1で守る事をしていたが、これではいざボールを持ってもチームの重心が低く(=位置的優位性がない)遅攻に頼らざるを得ない場面があった。それを今年の夏ごろから守備を5-2-3へ変更。シャドウはサイドに開かずにできるだけ中央に留まった。それによりサイドは明け渡す形になったが、ボール奪取時に位置的優位を確保しやすく、ゴールに近い位置でプレーができるようになった。

 

位置的優位については様々な視点があるため一概には言えないが、どこにスペースを造るか、ボールをどう受けるかに力を入れていた。

どこにスペースを造るかについては相手を食いつかせて相手のDFラインとGKまでの距離を間延びさせることでできるスペースを使う疑似カウンターの形をベースに。他にもWBがサイドの高い位置でボールを受けて斜め下のハーフスペースにスペースを造りCB(HV)がクロスの形だったり。様々な再現性のあるものだった。

ここにボールの受け方のクオリティをより突き詰めた1年。例えばGKからボランチへパス。ボランチはゴールを背にして相手のチェックを受けている時。ボランチは近くで前を向けているDFに戻す(位置的優位+数的優位)のがメインだったが、マークを受けながら反転(質的優位により位置的優位を創り出す)するチャレンジを各ポジションで求めた。

 

この数的優位と位置的優位を生かすだけではなく、徹底的に質的優位を殺す手立ても準備。それはカウンターの封印だ。

今年はそれはもう泣きたいほどカウンター絶対禁止!を徹底。たとえ高い位置で相手のミスからボールを奪ってもやたらむやみにゴールへと向かわず、じっくりゆっくりとボールを回した。

ホーム戦では度々「早くゴールへ行かんか!」などの声も聞かれたが、カウンターをするということは、裏を返せばどこかでボールを奪われてカウンター合戦になってしまう。ボールがゴール前をスピーディーに行き交うのはとてもハラハラドキドキすることだが、そんな展開では「構えて」の守備はできないし、数的優位や位置的優位を作れない。それが作れないと言うことは質的優位に晒される事に他ならないため、片野坂監督にとってもある意味不本意だったはず。しかしブレずに淡々と1年間継続して残留を掴み取った。J1定着がこれからの一番大切な事であり、そのための礎をつくったのだからカウンターの封印なんて些末な事ではないか。

生き残るためになりふりなんて構ってられない一年だった。そんなシーズンで理想と現実!みたいな両極端な事をせずに、理想のために今できる現実を選んだ片野坂監督に心から感謝を申し上げたい。来年も大分に片野坂あり!という采配を、勝利を期待しています。

 

継続はやがて勇気に

振り返ると、本当に、本当に報われたシーズンだった。

残留という目標を達成し、まさかまさかの2008年以来の1桁順位という結果を残したからだけではない。クラブとしてドン底をみて、そこから共に這い上がってきたメンバーがJ1の舞台で通用すること、活躍する姿を観れることが本当に嬉しかった。これをクラブの新たな1歩とできるのが嬉しくて仕方がない。

そして、自分にとって今年なによりも嬉しかったのが昭和電工ドームで1試合平均が1万5千人を超え、2万人以上の試合が3試合もあったこと。

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CKなどチャンスの時に少し遅れて響く手拍子。ゴール前での歓声。

昔の、そこまで強くはなかったが約2万人の人が毎試合トリニータを観に足を運んでいた15年くらい前を思い出した。

ここまで、それはそれは遠回りをして、たくさんの過ちを犯した。それでもまた、たくさんの人がトリニータに関心を持ってくれるのが本当に嬉しかった。
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神戸戦ではハーフタイムにスマホでキラキラは空間にできたり、続く鹿島戦では25周年記念にユニフォームも配布してくれた。友人も05年のコンフィットTシャツ(三木)からやっと新しいエンブレムに変わった。

相変わらずたくさんの人がドームに行くと渋滞が起こったりするが、それがまた懐かしくて。あー、J1戻ったんやな。ちゃんと戻るまで10年かかったな。とかしんみり。

 

トリニータを追い続けて良かったな。本当に報われたシーズンだったな。こっからまたいろんな挑戦をしような。とか思っちゃうわけです。

 

這い上がって、やり直せる勇気を見せてくれたトリニータ。一度躓いた先のJ1はとても輝いた、素敵なものだった。

そして、トリニータが体現した継続性を見て「俺も頑張らなきゃな」と。トリニータが日々の活力に、勇気になっていく。素晴らしい1年だった。

 

 

写真はトリニータ公式HPより