【大分】vs福岡(H) 九州の誇り〈J2 第20節〉
2位の大分と4位の福岡。勝ち点差は僅かに「2」。今期最多の12058人の観客を前でトリニータは最高の結果で首位に返り咲いた。
この日のメンバーは以下のように。
大分トリニータ
前節、怪我で途中交代をした後藤のかわりに國分伸太郎がスタメン。契約の関係でベンチ外だった宮阪も戻ってきた。そして前節に引き続き、丸谷が右のCBに入った。
アビスパ福岡
前節の4-4-2からフォーメーションを変更し、3バックで挑んだ福岡。松田力が累積で出場停止。かわりに石津大介が6試合ぶりに出場ら、左サイドには輪湖直樹から平尾壮へと変わった。
偏った攻めに対応
前半、福岡は左サイドから攻勢を仕掛ける。鈴木惇が左に寄り、平尾壮が位置を取る。CFのドゥドゥが左サイドに流れて石津大介がバランスを取り、篠原弘次郎が高い位置を取るサイドのカバーリングをしていた。
このように左サイドに人数をかけていく。中盤から下でボールを持つと、左から平尾、ドゥドゥ、石津、森本、枝村が大分の3バック+両WBに圧力をかけることで攻撃を作る。
マッチアップでは、大分の後ろ5枚に対してアタッカー5人は1対1を仕掛けるのではない。
福岡の左サイド、大分から見て右サイドを攻めていくため、松本怜に平尾をぶつけ、その背後にドゥドゥが流れて3バックの網の目を拡げてサイドからのカットイン、もしくはクロスで大分の守備をこじ開けようとした。
大分は、ドゥドゥがサイドに流れることにより、そこから打開してくることを想定していたようにみえた。ボールを保持しても、星雄次と松本のWBは相手の5バックの端を担う相手WBにぶつけず、トップ下とWBの中間にポジションを取って、相手の2列目をサイドの守備へと誘っていた。
これにより、大分のWBがボールを持った時は、相手WBが前に出てきたらその裏をシャドウが突き、2列目の選手がチェックに来れば、ボランチの宮阪がフリーでボールを受ける事ができるようになるため、中央からの攻めに転ずる事ができる。
以上のように両チーム共に明確な狙いを持ってゲームに挑んでいた。
大分ははじめて片方のサイドから攻めを受けたが、慌てることなくしっかりと対応。相手を引き込んで、やや攻撃で渋滞を起こさせてカウンターを狙った。
福岡は左サイドからの攻略を目指すも、なかなか守備が崩れない。すると前線に人数をかけて手数で上回ろうとする。前の5人が前のめりになり、3バックの左右を務める實藤友紀、篠原弘次郎も高い位置までボールを運んで厚みをもたらす。2列目の石津大介、枝村匠馬も前目にポジション取りをしていたため、次第に中盤の中央が空になっていた。
そして19分。大分は自陣で松本がインターセプトをすると、國分が素早く前線へ。右サイドに流れていた藤本が持ち運び、PA前の馬場へパス。馬場はタメを作ってサイドの松本にボールを渡すと、ダイレクトでクロス。GKとDFの間に速いクロスが入ると、DFの死角から藤本がニアサイドで合わせて先制点を奪う。福岡の高くなった左サイドのウラを取っての得点となった。
24分にはCKのこぼれ球を小手川が1トラップからドライブシュート。これは枠に嫌われたが、カウンターから効率よく攻める。
先制を許した福岡は相変わらず左サイドからの攻めが多かったが、1ボランチの鈴木惇の左右がぽっかりと空き、トップ下の2人も前のめりになっていたためロングボールを放り込むか、サイドに預けるかしかなく、中央からの打開は難しくなる一方。これを見てか大分は守備の形を変化させる。
いつもは5-4-1でサイドにフタをして5+4で挟んで潰すが、この日は5+3で守り、相手の手薄になった中央で数的優位を作り出した。
前線で國分、藤本が相手の背後を虎視眈々と狙い、速攻を意識していた。また、中央でボールを持たれると、ラインを上げてショートカウンターを狙いつつ相手をサイドへと引き込んでいく意識があった。
このように多くの駆け引きがあった前半は1点リードで折り返す事ができた。
耐えに耐えて
後半に入り、福岡は左サイドの偏重はそのままに、起点となる鈴木惇を中央からやや右寄りに配置。ボールの出し手と受け手の間に相手DFを置くような形にして、守りづらい形にマイナーチェンジをした。また、左サイドだけでなく、右サイドも使うようにしてサイドからシンプルに組み立てを行った。
大分は55分、宮阪から川西へ交代。中央で相手のバランスを崩す意味合いを持っていた。
福岡は63分に2枚替え。森本と枝村を下げて木戸皓貴と城後寿を投入。ここからゲームが激しくなる。
直後の64分、左サイド深くでドゥドゥが前を向くと馬場の肘が入り倒れるもノーファール。1分後には高木駿からのボールを受けようとした藤本が篠原に足払いをされて倒れる。悪質なファールだったが、審判団も見ておらずに流される。プレーが止まり立ち上がれない藤本を篠原が無理矢理起こそうとしてスタジアムは騒然とした。
70分からはオープンな展開になるが、大分はビルドアップでのミスから福岡を勢いづかせてしまう。木戸のシュート、CK崩れからのユインスのミドルシュートは高木が防ぐも、岩下と木戸のロングスローを含め守る時間帯が増えた。79分にはスルーパスを受けたドゥドゥからの折り返しをフリーで木戸が狙うも空振り。なんとか凌ぎきる。
最後20分は手に汗握る展開が続くも、守備陣がしっかりシャットアウト。1-0で上位対決の九州ダービーを制した。
福岡の印象
「大分対策」で大分のビルドアップでの対応を工夫をしてくるチームは多々あれど、福岡のように片方のサイドから攻めてバランスを崩そうというのは今季初。見ていてとても面白かった。中盤でボールを持つと、前線の5人がウェーブをして3枚が前に出て、2枚が受けに下がる形をしており、ゾーンかマークかでの対応で後手を踏ませる意図があったはず。しかしこの日はそちらに執心している間に中盤の空洞化を起こし、そこを突かれてしまったか。スペースの取捨選択は悩ましいところかもしれない。
選手で気になったのは、鈴木惇と木戸皓貴。
鈴木惇はさすがのゲームセンス。ロングフィードは一級品だと改めて感じた。彼にミドルシュートをもっと打たれていたら危なかったかもしれない。
木戸はゴリゴリ系のストライカーの印象だったが、ポジショニングが上手く、ワンタッチゴーラーっぽさを感じた。また、ロングスローをもっていたりと引き出しの多さも魅力だった。
そしてこの日もっとも目立っていたドゥドゥ。前半はスタンドにボールを蹴り込み、ハッと気づいてか平謝りしたり、馬場との接触でイラついてか終了後の握手で馬場の手をグーパンしたり……なんというか瞬間湯沸し器のような性格だな、と。考えるよりさきに動くタイプでパッション!な選手はあまりいないから観ていて面白かった。手を出しちゃダメだがシュートレンジも広く、福岡のキーマンとして厄介だなぁ、と。
越えたその先へ
試合後のインタビューで片野坂監督は髪は乱れ、喉は枯れながらも応対をしていて、この試合の激しさ、難しさを感じた。そして全身全霊で大分の為にやってくれていることも。
上位対決を制した大分は、再び首位に返り咲いた。そして、昨年のホーム勝利数に早くも並んだ。昨年は「鬼門はホーム」と言われて、どこかため息の多い大銀ドームだったが、今年は違う。昨年を越えたその先に見るのは「昇格」の二文字だ。