Nishida's diary

トリニータを中心にいろんな試合を。

【日本代表】vsベルギー 見えた限界。だが、美しく〈ロシアW杯 R16〉

2-2。アディショナルタイム。本田の蹴った無回転のFKは枠を捉えたが、クルトワに弾かれCKに。ここからカウンターを食らい、失点。

北京世代が求め続けた「自分たちのサッカー」はベスト8には届かなかったが、最後で最高の90分を魅せてくれた。美しく散った日本。グッドルーザーだったかもしれないが、それと同時に限界の見えたのも確かだった。

 

この日のメンバーは以下のように。

日本代表
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グループリーグ第1戦、第2戦と同じ11人。フルメンバーでFIFAランク3位のベルギーに挑む。

 

ベルギー代表
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プレミアリーグオールスターのような面々のベルギー。タレント揃いのチーム。デブライネがボランチをしたりカラスコがWBだったりと結構攻撃的。

 

 

ゲーム序盤のベルギー攻略法

 攻撃に強みをもつベルギー。日本はその相手に対してしっかりと対策を立てて弱みを見抜いていた。

 

ベルギーの3-4-2-1は攻撃の際に両WBが上がり前5人が幅を取る。


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自陣からのビルドアップでは、ヴィツェルが右SBに入り4-1-4-1で組み立てを行う。

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相手が攻めて来たら上記の4-1-4-1か、5-4-1でブロックを作って対応。


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この3つの形を使い分けるベルギーの弱みとなったのは、右サイドのムニエの裏と、可変の際に大きく動くヴィツェルのスペースだ。

 ベルギーは、日本に対しての守備ではたいていは②の形で守り、①の形で攻撃。守備であまり③を使わなかった理由として、日本の攻撃は大迫の足下に入るとスイッチが入ること(高さでの勝負ではベルギーに分があるため)、5-4-1では自陣に引く形になるため攻撃で特徴が出る選手の個性がなくなると共に日本の両SBがフリーになりやすくなるため、前からスイッチを入れられる②の形での守備、組み立てをメインとしていた。

 

 これに対して日本は、ベルギーの右サイドを突くデザインを準備していた。

4-2-3-1を基本とする日本。
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攻撃の際には大迫、香川、乾、原口の4人にボールサイドのSBかボランチの柴崎が上がり、5人で幅を取りながら攻めるというこれまでの形は維持。
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しかし、乾と香川の動きには工夫があった。

これまでは乾はサイドと左のハーフスペース(中央とサイドの間)を行き来してマークを外していたが、この日は左サイドよりも内側に入ってプレーすることが多かった。これはサイドの長友のスペースを空ける意図と、相手CB、右WB、ボランチの間に位置を取ることによりベルギーの連携を分断できた。

また、これまでは時間帯によって組み立てに関与するために下がることもあった香川は、2列目から動かないことを重視。相手のダブルボランチの内、ヴィツェルは右SBに吸収されるため、デブライネの1ボランチの脇にできるスペースを突く事ができた。また、内に来る乾、ポストプレーをする大迫との距離が必然的に近くなるため、中央での連携から3バックの脇を突くことがよりスムーズにできた。

 

日本は、ベルギーのヴィツェルボランチ-右SB間を動くことによりできるスペースの有効活用を準備できたことにより、主導権を握ることができた。

 

前半中盤からベルギーの修正

主導権を握られたベルギーは想定外だったようだ。日本が柴崎を中心に左右のサイドチェンジから組み立てると予想していたかもしれないが、予想に反して前から仕掛けてくる。ベルギーの両サイドは高い位置を取るため、守備で後手を踏む。ここでベルギーはビルドアップの形を修正。ヴィツェルとデブライネの位置を変えて、ヴィツェルのポジション移動をスムーズにできるように変更。また、ヴィツェルが下がって4+1のビルドアップから、3バックが大きく広がり3+2のビルドアップを主軸に置いた。

この変更により、中盤とDFラインのスペースを突いていた乾の位置をヴィツェルが消すと共にベルギーがボールを持った際に乾はヴィツェルアルデルワイレルトのどちらを見るか迷いが生まれ、中央で香川と被ったりサイドで孤立する場面が増えた。

日本の1stDFのズレから中盤→サイドと繋がると、低い位置からでもクロスを入れはじめた。最前線のルカクにボールを当てて日本のDFラインの押し下げと中盤の分断を狙ってのことだろう。しかし日本はルカクとマッチアップをする昌子がなんとか凌ぎ、全体をコンパクトにすることで間延びを防ぎ、大崩れをすることはなかった。

30分ほどからゲームは落ち着くと、44分に右サイドから左へ振り、長友がシュート。大迫がコースを変えるとクルトワがボールを後逸。ゴールラインは割らなかったが、非常に珍しいシーンだった。

攻守での駆け引きが多く、見ごたえのある前半はスコアレスで折り返す。

 

電光石火の連続得点

後半に入り、先手を取ったのはまたしても日本。48分に前がかりだったベルギーに自陣からカウンターを仕掛け、中盤中央から柴崎が3バックのウラヘ見事なスルーパス。これにベルトンゲンが足を延ばすが届かず、原口にパスが通ると、ボディフェイントからファーサイドへ右足一閃。3バックの脇を突いた会心の一撃で日本が先制。

直後の49分、昌子と長友の間でメルテンスがボールを受けて右サイド深くからマイナスのパス。これをアザールがダイレクトでシュートも枠に嫌われる。

先制を許したベルギーは、日本のボランチの位置でのプレスの強度を上げてショートカウンターを狙うも、これが仇となってしまう。

中盤の高い位置からプレスをかけるも、素早いパス回しでサイドの長友→乾とパスが回る。ベルギーは前がかりになった中盤とDFラインが間延びをしてしまい、香川にフリーでボールを持たせる。ベルギーはここでディレイができ、守備ブロックを作ったがその前から乾が強烈なミドルシュートを放つ。無回転のボールは、糸を引くようにゴールに吸い込まれていった。

52分で日本がまさかまさかの2点リード。ここからゲームはまた、大きく動く。

 

3と4の間。流動的に。

 ベルギーは2点をリードされてから変更を加えた。右サイドのムニエの攻撃参加をやや抑え、右サイドのチェーン切れを抑制。DFラインは3枚か、ヴィツェルが降りて4枚の形。中央のレーンにCB2枚とトップ下の2枚、デブライネの5人を置いて中央で日本に気持ち良くプレーさせないようにした。また、ルカクメルテンスアザールは流動的になり、より自由に攻撃を仕掛けるようになった。
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前線が流動的になったベルギーは、ロングボールを入れるために、自陣でビルドアップをするときにルカクがサイドへ流れて長友とマッチアップをする形を増やした。ルカクは190㎝に対して長友は170㎝。ミスマッチを作ってボールが収まれば、そこからはズレを突いていくだけだ。

なりふり構ってられないベルギーは、65分に2枚変え。メルテンスを下げて194㎝のフェライニカラスコを下げてシャドリを投入。
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交代直後はこの形だったが、フェライニルカクと2トップになったりボランチまで下がったりと流動的で、それにあわせてデブライネがバランスを取ることで日本にマークの的を絞らせなかった。

 

流動的なベルギーを相手になんだかんだで粘り強く対応をしていた日本だったが、フェライニ投入から僅か4分後、思わぬ形から失点をしてしまう。左サイドからのCKを乾がクリアミス。大きく上がったボールをベルトンゲンがヘディングで折り返すと、これが川島の頭上を越えて直接ゴールへ。不運かミスかはわからないが、あり得ない形から失点。すると5分後の74分にはCKの流れから左サイドのアザールのクロスをフェライニに合わせられてあっという間に同点に。

 

日本はこの連続失点に動揺して稚拙なミスが増える。79分80分にはベルギーに連続でCKを奪われてファーサイドを徹底的に狙われたが、これで失点はせず。慌てまくる日本は、柴崎→山口、原口→本田。本田が入ってから多少落ち着いたが、85分にシャドリのヘディングシュート、そのこぼれ球をルカクがヘディングシュートをするが、どちらも川島がファインセーブ。

そして試合終盤。90+1分、あの場面。大迫が中盤中央でファールを貰い、キッカーは本田。

距離的にも8年前のデンマーク戦とほぼ同じ。無回転のボールは枠を捉えたが、クルトワに阻まれた。
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その後のCKをクルトワにキャッチされ、速攻。たった10秒でデブライネからムニエと繋がり、ルカクがスルー。ファーサイドでシャドリ詰めて逆転。そして、試合終了。

 

見えた動揺、Jの文化

この試合の流れが大きく変わったのは、川島のミスと言われても仕方のない失点からだった。直後のプレーで大迫がコンパニとのデュエルで負けて副審に怒った場面や、その後の日本チーム全員が浮き足だって攻め急いだ場面から「ヤバいかも」と感じた。

多分この動揺は、川島のミスだったからではなく、どのような形からの失点でも日本はおそらく同様に浮き足立っていたと思う。それは単純にメンタルに起因するものでなく、普段のJリーグの文化が関係しているのではないか?

Jリーグはビッグクラブがなく、毎年チャンピオンは変わるし、勝ち点1差で明暗が別れるケースは他国に比べてとても多い。J2ではより顕著だ。また、外国人選手が日本サッカーに関してのインタビューを見ると「良く走る」「勤勉である」「規律を守る」と共に「たとえ点差が開いても最後まで諦めない」と言うのを目にする事がある。個人の経験なので印象でしか語れないが、2-0から1点を返されると途端にあわてふためいて引き分けに持ち込まれたり逆転されたりという機会が多く感じる。Jリーグがはじまりたったの25年だが、最後まで諦めない「文化」が悪い方向に作用してしまったのだと感じる。

 

試合を終えて

あまりにも、あまりにも劇的な逆転での敗戦。うずくまる昌子の背中を見ると、号泣する乾を見ると、とてもやるせない気持ちになった。項垂れる選手たちを見るとサッカーはとても残酷だ、と感じた。

 北京世代が中心となった南アフリカ大会後から取り組んで、自分が毛嫌いしてきた「自分たちのサッカー」の集大成の1戦。選手たちの気迫がこもった90分。なんだかんだでステキなサッカーだった。観ていてとても美しく、最高の試合だったと思う。

 

だが、この結果は北京世代の成功や成果であっても、日本サッカーの成功ではないことは残念で仕方がなく、これが俗人的で再現が難しい事を考えると、とても儚いものだったのだろう。それが個人としてはとても悔しく、やるせない。

「感動をありがとう」と連日のTVで見たが、個人としてはベルギー戦の90分を終えての感想だ。これまでの4年間の積み上げを反故にしてまで「感想をありがとう」とは、自分は言えない。JFAにはしっかりと振り返りと検証を行ってほしいが、目先の新監督、目先の親善試合と場当たり的で、長期を見通した指針はなかったものとされてまた漫然と4年を過ごす事がとても、とても虚しい。そして指針なき組織の下でプレーをしないといけない選手達が割りを食らうのがとても気に入らない。

 

非常に美しく、スペクタクルな試合。しかしその感動を田嶋に削がれた。とても悔しく、気持ちはまとまらない。